※本記事は真っ白なキャンバス4周年ライブ『わたしとばけもの』公演のセットリストをなぞりながら一年間を振り返っています。約19000文字の長文記事となっておりますので、読まれる際にはご了承くださいませ。
怪物と戦う時は自らも怪物にならぬよう、心せよ
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ
Friedrich Wilhelm Nietzsche
2021年11月20日にかつしかシンフォニーヒルズにて真っ白なキャンバスの4周年ライブ『わたしとばけもの』が開催された。
当公演が行われるモーツァルトホール1318席を誇る大会場。コロナ過の中で総じてライブへの参加者は減少傾向にあるご時世ではあるが、記念すべき4周年ライブを見ようと多くのファンが会場を埋め尽くしていた。
そんな かつしかシンフォニーヒルズはアイドルのライブが開催される場所としては珍しい会場。
ライブ前日に行われたPWCオンラインサロンの白キャンウェビナーでは、プロデューサーの青木勇斗が生まれ育ったのが葛飾でり、それが会場を決定した理由の一つでもあることが語られていた。
もちろん会場については複合的な事情を考慮した結果であるものの、偶然の一言で片づけてしまうにはあまりにも数奇な、白キャンという個人のパーソナリティに深く根差したグループの運命的なものを感じずにはいられない。
会場入り口にはファン有志から贈呈された、告知ポスターに登場している”ばけもの”を形どったスタンドフラワーが飾られており、ライブに向けての気持ちを高めてくれる。
開演時間となり、会場が暗転する。
いつものSEではなく闇夜を想起させるノクターン調の音楽が流れ、5人のダンサーが登場しダンスを踊る。
そして、紗幕の向こう側にスポットライトに照らされ7人のメンバーが浮かび上がる。
幕が上がるとメンバーがステージ前方に歩み寄り、身に着けていた仮面と黒いマントを客席側に投げ捨てる(シリアスなシーンであったが、小野寺梓はマントを客席にかけようと全力で投げたものの失敗したらしい)。
そして、ファンの心を捉えてならない、あの音が鳴った。
1曲目は『SHOUT』
真っ白なキャンバスの一番のキラーチューンにてライブはスタートした。
初めて会って、初めて想った あの日の思い出
言いたいことは全て言えないけど
生まれてきた理由(わけ)に気づいていた
今の僕なら君に笑顔でできるだろう 初めての日のハイタッチを
真っ白なキャンバス 『SHOUT』
2021年7月25日に行われた5日連続ライブ『Be the IDOL』そのFINAL公演。
そこで新メンバーとして呼ばれた名前は、まさかの鈴木えまと麦田ひかる。
2020年6月22日に卒業した初期メンバーである二人が1年の時を経て白キャンに戻ってきた。
いったん辞めたメンバーが元いたグループに戻ってくるケースはそれほど多くはない。
ましてやメジャーデビューを果たした白キャンほどの規模のアイドルではほとんど例がないと言っても良いだろう
この二人の再加入については、昔ながらのファンが喜びを隠し切れない様子でいる反面、戸惑いを感じる者も少なくはなかった。
鈴木はその唯一無二のウィスパーボイス、麦田は美しきダンスでグループに儚さと透明感をもたらしており、初期の真っ白なキャンバスの世界観を象徴したメンバーと言ってもよい。
だが、二人の卒業後はメジャーデビューを経て、その時の流れとともに白キャンは変化していった。
今の白キャンというグループに二人は必要であるのか・・・。
そしてまた卒業から一年ちょっとでの復帰という特殊な事情。歓迎する声ばかりではなかったのは正直な所であろう。
そんな空気を察してか再加入時のステージにて鈴木は「自分とひかるが加わって良かったなと思ってもらえるようにがんばります」と述べ、麦田は「いろんなご意見があると思いますが」との神妙なコメントを残している。
鈴木と麦田は飾らないキャラクターと自由なイメージが先行しがちではあるものの、実際は周りをよく観察している。
そして色々なことを考え、人に寄り添うことが出来る者であることは、彼女たちはあえて語りはしないものの平素の細やかな心遣いに表れている。
以前の彼女たちはライブのMCなど人前でしゃべったりすることが苦手で、言葉を紡ぐことを諦めてしまうこともあった。
それは彼女たちの自由さに根差した愛すべき部分であったと共に、繊細な心を持つ者であるが故の優しさと表裏一体の弱さでもあったように思う。
彼女たちがステージから消えたあの日。白キャンの儚さは彼女たちの柔らかな心の欠片で出来ていたのだという事に気づかされた。
何かが落ちたような気がした 日に日に積もる思い
真っ白なキャンバス 『SHOUT』
SHOUTで鈴木と麦田が歌うフレーズである。
白キャンをいったん卒業した彼女たちがどのような思いを抱いていたのか、その胸中はいまだ語られてはいない。
鈴木と麦田は再びアイドルを目指すにあたって青木プロデューサーに相談を行っている。
青木は面談で今の二人アイドルに対する想いを確認する中で「上を目指したいと思うなら白キャンだ」と語ったという。
そして、鈴木と麦田は白キャンの新メンバーを募集するAtelier IBASHOオーディションに参加した。
そんな彼女たちの白キャンへの復帰はメンバーを含めた話し合いの末、満場一致で決定したという。
アイドルにとって1年間のブランクは大きい。
だが、街でスカウトされてから あっという間にメジャーアイドルへと駆け上がってしまった彼女たちには、少し立ち止まってアイドルとして生まれてきた理由を探すモラトリアムの期間が必要だったのかもしれない。
再加入を果たした彼女たちは以前と変わらず自由で儚いままだ。
だが、そこには勇気をもって元の道に戻ることを決めた、強い覚悟が付け加えられている。
アイドルにとって厳しい時代、そして白キャンにとってもこれからのアイドル界の高みを目指す道のりはますます険しいものとなる。
でも、今の彼女たちならばどんな困難もきっと乗り越えられるだろう。
もう何百回も飽きるほど見てきた『SHOUT』であるが、この日はひときわ深く心に突き刺さった。
2曲目は『ダンスインザライン』
しり上がりに調子を上げるメンバーが多い白キャンであるが、この日は開始早々から全く出し惜しみのないフルパワーのパフォーマンスで会場のボルテージを一気に上昇させる。
そんなグループの好調さを見極めた橋本美桜は ダンスのギアを一段と上げ、メンバーのテンションをますます加速させていく。
白キャンはメンバー個々の武器を最大限に磨き上げ、ステージに表現するグループである。
小野寺梓の表現力、三浦菜々子の歌、西野千明のライブ感、浜辺ゆりなの無限の可能性、鈴木えまの声、麦田ひかるのダンス。それぞれの個性を生かした武器はどれもとっても一級品である。
そして橋本は白キャンの精神的支柱としての貢献だけに留まらず、ステージ上においてもそのオールマイティーさでメンバーの尖った個性と個性を繋ぐ、ある種の最重要ピースとしての役目を持つ。
歌唱においては小野寺と三浦のつなぎの役目を果たし、技術面においては低音部からファルセットまでこす。
また緊急事態には臨機応変にボーカルの代役も行うなど、その幅広い貢献ぶりは枚挙にいとまがない。
また、ダンスにおいても華奢な体躯からは想像できないようなキレを誇り、前述したように後半に調子を上げるメンバーが多い中、最初から高い集中力でステージに臨みライブをけん引する。
そんな橋本を白キャンの多くの楽曲を手掛ける古屋葵氏は「引き出しが多く、何でもできる」と最大級の評価を与えている。
ライブでの橋本の面白い所は、毎回のステージでパフォーマンスに何らかのアップデートを加えているところだ。
美味しいラーメン屋が同じように見えて少しずつ味を変えているように、橋本のパフォーマンスも変化したのを悟らせず、日々革新を遂げている。
そんな熟練の職人のような彼女のこだわりが、何度見ても新たな一面を感じさせる白キャンのステージを作り上げているのかもしれない。
3曲目は『セルフエスティーム』
麦田ひかるの不在時は小野寺梓に受け継がれていた冒頭のソロダンスは麦田の復帰により、元の形におさまった。
改めて麦田のダンスの美しさに見惚れると共に、曲の歌い出しの後にソロダンスを踊るという、高い負荷を当たり前のようにこなしていた小野寺の底力に感心させられる。
静謐でありながらも激しく、強く感傷的な『セルフエスティーム』という曲。
色々な思いの交差する曲の始まりにさらに感情の色を添えるのが三浦菜々子の歌声だ。
三浦は白キャンの歌姫と呼ばれているのは周知のとおりであるが、この日の彼女は手を掲げれば雷鳴が走り、視線を投げるだけで海を割くかのようにパフォーマンスが冴えわたっていた。
それは姫を超えて”帝王”というべきほどの圧倒的迫力を誇っていた。
ライブ後には誰しもがそのパフォーマンスを絶賛する三浦であるが、自分に自信がなく、納得できるパフォーマンスが出来たと思うことは少ないという。
2021年7月に公開されたメンバー個別インタヴュー企画「真っ白なキャンバス Road to Be the IDOL」のインタビューでは下記のように語っている。
三浦 : ずっと思ってるんですよ。もう3年やってきて、白キャンの中で、自分はもうたぶん誰にもかなわないと思ってて。唯一できるのは、みんなを引き立てることだと思ってるんですよ。
メンバー個別インタヴュー企画「真っ白なキャンバス Road to Be the IDOL」
三浦はそのイメージに反して歌詞の歌い間違いが最も多いメンバーであったり、精神状態によりライブでのパフォーマンスに波が大きいメンバーである(もっとも元々のレベルが高いため、気づくのはいつも後になってであるのだが)。
しかしながら、それは己に厳しくあらなければならないという表現者の矜持に根差したものであり、時に色濃く見せる表現への苦悩は、選ばれし一握りの才能を持つ者しかたどり着けない孤独なのだ。
そんな彼女は2021年の前半に行われた全国ツアー『それでも強く、ただ真っ直ぐに』にて喉の不調に見舞われる。
苦心しながら歌う姿すら魅力的に見せたステージは逆説的に三浦菜々子の凄さを改めて見せつけることとなった。
だが、歌うことに全てをかけている彼女にとっては決して納得のいくものではなかっただろう。
終演後の特典会でいつも以上に明るくふるまう彼女の笑顔は、なんだか悲しそうに見えた。
「ああ、枯れ葉がひらひら落ちる歩道で」
真っ白なキャンバス『セルフエスティーム』
曲のサビでもないし、三浦が歌ってもいないこのパート。私がセルフエスティームの彼女のパフォーマンスで最も好きな部分である。
歌に合わせてひらひらと舞い落ちる枯れ葉を手で取ろうとするダンスがあるのだが、三浦は突風に煽られ、掴みかけた枯れ葉は手からすり抜けていってしまう様をリアルに表現する。
ステージの端の目立たない場所に居ても視線を向けずにはいられない、細微にまで生命を宿したパフォーマンスに感嘆の息がもれる。
きっと もう 終焉 眠らせてほしい 僕は これからもここで
真っ白なキャンバス『セルフエスティーム』
そう、きっと彼女はこれからも己の総てを焔にくべて、灰になるまで歌い続けるのだ。
この日の特典会、ライブの感想を聞くと三浦はいつものように笑っていた。
私はその様子を見て、なんだかとっても嬉しくなった。
4曲目は『ルーザーガール』
昨年の3周年ライブにて初披露された1stアルバム『共創』に収録されている楽曲である。
努力したけど
それじゃ駄目なの?って
一生 劣等 ルーザーガール
真っ白なキャンバス『ルーザーガール』
日本テレビで行われた LIVEパフォーマンスNo.1アイドルを決定する「IDOL OF THE YEAR 2021」において、白キャンは決勝大会に駒を進めたものの奮闘及ばす敗北した。
「Appare!」、「アンスリューム」、「#ババババンビ」、「真っ白なキャンバス」という、現在のライブアイドルシーンの勢いを凝縮したともいえる4組にて行われた決勝戦。
最大瞬間風速においてはアイドル界において右に出る者のいない「Appare!」が大一番で真価を発揮し、その栄冠を手にすることとなった。
敗れたとはいえ白キャンのパフォーマンスも素晴らしいものであり、審査員の元チェッカーズの鶴久政治氏がその曲ぶりを賞賛していたのが印象的であった。
しかしながら久しぶりの勝負事、TIFメイン争奪に続いての敗北はメンバーに深い影を落とすこととなる。
小野寺梓は決勝の後に行ったツイキャスにおいて、その深い苦悩を垣間見せることもあった。
白キャンがファンの心を捉えて離さない、魅力の根源とは何だろうか。
可愛いメンバー、高い楽曲レベル、満足度十分のイベント。それらはもちろんグループの強い魅力だ。
しかしそれ以上にアイドルという煌びやかな世界において、ありのままのリアルを感じさせる。メンバー各々の持つどこまでも人間らしい部分なのではないかと私は思っている。
あの子みたいになりたくて
あの子みたいになれなくて
真っ白なキャンバス『ルーザーガール』
勝てなくてもそれは決して無駄なことじゃない。
不器用で躓くことばかり。それでも気付けば前のめりに1歩前に進んでいる彼女たちを見ていると、なんだか勇気をもらえた気がした。
『ルーザーガール』の後はマスクをつけた”ばけもの”を模した人物がステージに登場し、心の中の負の感情について焦点を当てた寸劇をメンバーと繰り広げる。
”ばけもの”の独白に続く台詞を担当するのは三浦菜々子。
近年は少なくなってしまったものの、女優としても活躍する彼女は確かな演技力でコンセプトライブの世界観を引き立てる。
鈴木と麦田は彼女たちの繊細なキャラクターを生かして不安を述べる演技を行い、物語に色を添える。
本MCのラストに小野寺が「大丈夫。みんなと一緒なら進めるから」と言うと場面が転換した。
5曲目は『オーバーセンシティブ』
本曲はアルバム『共創』において冒頭の『桜色カメラロール』に次ぐ2曲目に配置されている重要曲。
そんな『オーバーセンシティブ』の開始時のセンターに立っているのは、発売当時加入からまだ8か月程度しか経っていない浜辺ゆりなであった。
白キャンをプロデュースする青木勇斗は実力第一主義だ。その楽曲が最も魅力を発揮するように、忖度なしでメンバーを配置する。
浜辺はアルバム『共創』の歌割が振られた際、曲によっては歌割がワンフレーズしかないことにショックを受けたという。
だが、レコーディングが終了し、ライブでの披露に向けて楽曲全体の世界が構築されていく中で浜辺に重要なセンターポジションでのダンスの役割が回ってくる。
そして浜辺はその期待に見事に応えることとなる。
加入からわずか4か月で白キャンの総ての曲をマスターしたアイドル界の逸材にとっては、これでも遅すぎるくらいの抜擢だったのかもしれない。
先述したIDOL OF THE YEAR 2021の決勝においても、本曲がトップバッターに選ばれたのはきっと必然だ。それほどまでに彼女の充実ぶりはいつも我々の想像の遥か先を行く。
ライブで披露されるたびに加速度的にその魅力を増していく浜辺と共に、本曲はこれからも進化を続けていく。
そんな『オーバーセンシティブ』は歌の面で注目されることが多い三浦のダンスが冴える曲でもある。
曲の冒頭において全員が一旦後方に下がり、変調と共に前に出てくるシーンがあるのだが、三浦は舞台の最後方から最前までまるで飛ぶが如く、華麗なダンスを見せつける。
歌について語られることが多い三浦だが、ダンスにおいても彼女はハイレベルだということを思い知らさせる。
6曲目は『全身全霊』
開始から全く息をつかせぬ流れの中で、白キャンの最高傑作のひとつである本曲が登場。
会場は序盤からクライマックスのような高まりを見せる。
『全身全霊』の曲の歩みはメンバーの成長の歩みでもある。
1周年では前リーダー立花悠子が最初で最後の一度きりの披露となる伝説のステージを残し。
2周年では橋本美桜が第3のボーカルとしての台頭を感じさせ。
3周年では小野寺梓と三浦菜々子が真の意味でのライバルとして曲を一段と高いレベルに引き上げた。
4周年では再構築された歌割にて1番のサビを西野千明が、2番のサビを歌い新たな息吹を吹き込んだ。
また、鈴木えまと麦田ひかるの加入により7人体制となった現在は史上最大の迫力を誇ることとなった。
そして、そんな白キャンの歴史と想いを背負い、小野寺梓は天に手を翳しラストのロングトーンを高らかに歌い上げる。
そう、それはまるで祈りのように。
来年の5周年にはどのような全身全霊を見せてくれるのだろうか。
今からその期待に胸は高まるばかりだ。
7曲目は『My fake world』
近年は披露されることがめっきり少なくなってしまったものの、コアなファンを持つ白キャンの名曲である。
作曲の古屋葵氏は楽曲の技術的なクオリティでは本曲が一番であるかもしれないと語っていたこともあるほどだ。
そんな本曲はスポットライトに照らされた麦田ひかると鈴木えまのダンスから始まった。
実は『My fake world』において麦田と鈴木がメインで歌うフレーズは2番の冒頭の1フレーズしかないのだが、彼女たちのその透明で儚い世界観はエモーショナルな楽曲になればなるほど燦然と輝きを放つ。
なかでも麦田は本曲の冒頭、1番サビ、そしてラストでセンターポジションに収まっており、強烈な印象を残す。
通常、楽曲中においてセンターのポジションは歌唱を行うものの指定席となることが多い。
しかしながら、麦田のダンスはそれ一つだけでメインとなって有り余るほどの魅力にあふれている。
しなやかな手先の動き、大胆かつ繊細なステップは心のうねりそのもののようで胸を締め付ける。
彼女は控えめな性格の多い白キャンメンバーの中でも最もシャイなキャラクターの持ち主。
彼女は言葉で多くを語らない。だからその柔らかで慈しみ深い内面の世界を踊ることで表出する。
それは深く、とても深く、そして美しい。
そんな麦田であるが、復帰後はMCなどで自分の言葉で語る機会が少しづつ増えてきた。
その一歩は彼女にとって、とてつもなく勇気のいる大きな一歩。
そしてこれからも柔らかに、でも力強くその歩みを進めていくだろう。
『My fake world』の後はMCに突入する。
三浦の「今思っている不安や悩みを言ってみない」と言うセリフ回しによりメンバーそれぞれが心の中に飼う”ばけもの”について述べる。
三浦 曲ごとに自分がやりたい表現はあるんだけれども、思い描いているようにできない 橋本 色々と考えて、うまく自分を出せないのが悩み 浜辺 人の目を気にしちゃう 西野 自分の歌割が多い曲になると不安になって、苦手意識を持ってしまうこと 鈴木 自分に自信が持てなくて下を向いてしまう癖があること 麦田 人前に立つと緊張してしゃべれなくなっちゃいます 小野寺 理想のアイドル像にずっと追い付けないこと
全員が言い終えると”ばけもの”が登場し「暗い世界に落ちてもらいましょうか」と言い、ステージが暗転した。
8曲目は『モノクローム』
ステージがライトアップされ、ステージに立つ小野寺梓、橋本美桜、鈴木えまの3人が映し出される。
このパートは白キャンのライブでは非常に珍しいユニット構成での披露となった
本曲は白キャンの4番目の楽曲と歴史は古いのだが、鈴木はこの曲があまり好きではないと言う。
白キャンの黎明期においては『SHOUT』や『アイデンティティ』といったコールの活発な曲が脚光を浴びていた。
そんな中で聴かせるタイプのミドルテンポの本曲は相対的にファンの反応が目立たないため、まだ評価の定まっていなかった駆け出しのグループとしては不安に感じることも一因であったのだろう。
そして鈴木においっては2ndワンマンライブ『Not idle but “idol”』にて披露したアコースティックバージョンの『モノクローム』において、上手く歌うことが出来ずに詰まってしまった。そんな苦い過去も影響しているのかもしれない。
だが、今日、この日のステージに立つ彼女は以前の姿からは想像できないほど、高らかに堂々と『モノクローム』のソロパートを歌い上げた。
かつての鈴木は有り余る個性の魅力とは裏腹に人一倍パフォーマンスに苦労したメンバーである。
だから一年間の空白を埋める作業は並大抵のものではなかったことは容易に想像できる。
そんな彼女は「以前の自分は子供であった」とその心境を語ることがあった。
戻ってきた彼女は昔と変わらずファン想いであり、頑張り屋であり、そして予測不能のロックさを持った少女のままだ。
そんな、少女のまま大人になった彼女のあるがままを見守りたいと思う。
9曲目は『らしさとidol』
橋本美桜が最も好きな曲として挙げていた曲だ。
そんな橋本は3人の中心で本曲を歌う。
橋本はメンバーの精神的な支柱であり、冷静な視点でグループを俯瞰できる人物である。
そんな彼女は白キャンの新メンバーのオーディションが開催されることが決まった当初「じゃあ私の分も探しといてくれや」と思ったという。
運営の信頼も厚く、貢献度も高い彼女はなぜそう思うに至ったのであろうか。
橋本はオールマイティーなパフォーマンスだけではなく、グループを裏側からも支える貢献度も高く、運営からの信頼も厚い。
しかしながら、彼女は言われたことをただこなすだけの単なる”いい子ちゃん”ではない。
浜辺ゆりなと共に青木プロデューサーと話し、新メンバーを加入させるメリットについて納得した橋本は、後に妹分グループPalette Paradeの最年少メンバーの白川千尋を先輩として気にかけている様子も見られている。
その事に自分自身がきちんと納得出来る理由があるか、それでなければ動かない確たる芯と熱さを持つ。
彼女が見ていたのは自分の感情ではなく、そのことによってグループがどうなるのか、そしてその未来に意味があるのかだったのであろう。
そんな橋本は自分自身の他者への献身について「無理をしてはいない」とインタビューでは語っている。
だが、私は”無理をしていると他者に思わせたくない”という彼女の気持ちが強いのではないかと思うこともある。
本気で向き合うから痛くて
求めるから痛くて
擦り切れていく心は まだまだまだ
真っ白なキャンバス『らしさとidol』
彼女はきっと周りが思うほど強くはない。それは彼女の柔らかな優しさが証明している。
でも、それでも自分のことよりも、必要な誰かのために心を向けずにいられない人間なのだ。
そんな彼女のアイドルらしさを、私はとても好きだなと思う。
10曲目は『パーサヴィア』
場面は転換し、今度は三浦菜々子、西野千明、浜辺ゆりな、麦田ひかるの4人がユニットが登場した。
白キャンの歴史において小野寺梓がステージにいなかったことはわずか2日間、それも黎明期の2018年2月にまで遡る。
その歴然たる事実は結成からグループを支えてきた小野寺の存在の大きさを改めて感じさせる。
そんな白キャンのエースのいないステージ。
一抹の不安が頭をよぎるものの、まるで”それは杞憂だよ”と諭すように浜辺がアグレッシブなパフォーマンスで魅せる。
西野がステージの流れを支配する。
麦田のダンスはいつだってパーフェクトだ。
そして三浦はいつもと違う歌割であっても、まるで自分の持ちパートであるかのように曲を自分色に染め上げる。
一人一人が確かな存在を示す、そんなグループの底力を改めて感じさせる。
11曲目は『空色パズルピース』
ロックバンド『おいしくるメロンパン』のナカシマ氏の提供による本曲はアルバム『共創』の中でも特に強い人気を誇る曲であり、またBPM160越えの難しい楽曲でもある。
そんな本曲において存在感を見せたのが西野千明だ。
デビュー当時は苦手だったダンスも今や完全に覚醒し、今や白キャンの欠かせないピースとなっている西野。
そんな彼女だが歌については苦手意識が長らく拭えなかった。
ドキュメント番組『真っ白な詩』においてはレコーディング中に歌うことに自信をなくしてしまい、思いがけず泣いてしまうシーンもあった。
西野はグループのムードメーカーである。その明るいキャラクターにより誤解されがちなのだが実際にはとても繊細な一面を持ち、また人一倍不器用な人間でもある。
そして西野は正直な人間であり、決して自分にずるをしない。だから誰にも語ることなく地道な努力を続ける。
どこまでもゆけるよ
僕には翼があるから
真っ白なキャンバス『空色パズルピース』
表現の難しい落ちサビを堂々と歌い上げる歌う西野。基本に忠実でまっすぐのびやかな素敵な歌声。
それは彼女のたゆまぬ努力が花開いた瞬間だった。
12曲目は『わたしとばけもの』
日常に潜む目に見えない、恐怖・焦り・怒りなど、私たちは日々、形ないものと葛藤している。
その形ないものは“ばけもの“のように、突如私たちの前に現れ、進む力を奪い、邪魔をし、阻害する。
それに耐えられなくなったものは命だって落とすこともある。
ばけものに取り込まれないように必死に立ち止まる毎日にはもううんざりだ。
正解のないこの世の中で、私は自分のやり方でそのばけものを倒して、前に進む。
真っ白なキャンバス4周年ライブ『わたしとばけもの』
特徴的な鍵盤のインストルメントが静かに流れる。ついに真打の登場だ。
今回の4周年ライブのタイトルにもなっている本曲の登場に会場のファンにも緊張が走る。
小野寺梓を抱きしめる浜辺ゆりな
三浦菜々子と抱き合う橋本美桜
互いにもたれかかる西野千明と鈴木えま
ステージ中央に立つ麦田ひかる
スポットライトがメンバーを妖艶に照らす。
真っ白なキャンバス31作目となる本曲は白キャン史上最高難易度の曲であり、もっとも重いテーマを持つ。
多くの白キャンの作詞を手がけているmimimy氏は「正直、曲が良すぎてわたしには書けないと思ってしまいました。わたしは弱いので。そんな弱さが全面に出てしまいました。そこに声が入って命が吹き込まれました。わたしも一人じゃないよって言ってもらえた気がして泣きました」と語っている。
そして作曲を手掛けた古屋葵氏は「正直、青木Pから構想が来た時からレコーディング当日までずっと不安でした。メンバーの声が入った瞬間、この曲の持つ本当の意味を解釈できて完成しました。」と語っており、制作陣においても覚悟の必要であった楽曲であることが伺える。
語りかけるような三浦と小野寺の繊細なボーカルで曲の物語は始まる。
鈴木と麦田の透明感のある声がその世界の輪郭を描き出す。
西野と浜辺が真夜中の凪のように感情を掻き立てる。
橋本はそれらすべてを受け止め、静かに絶望と希望の混沌を彩る。
この間、麦田はステージの中心にとどまったまま、実に冒頭からの約55秒を圧倒的な完成度と美しさ踊り続ける。こんな芸当は彼女しかできない。
生と死を連想させる世界をありありと描き出したアイドルとしては先鋭的すぎる 『わたしとばけもの』という曲。
名曲であることは間違いないのだが、難解で様々な解釈があるため、万人受けはしないのかもしれない。
しかしながら、今のこの時代に白キャンの7人が歌うからこそ意味がある。
嗚呼 あの子は嘆いて身を投げたし
嗚呼 あの子は病に伏せた
目に見えない感染症
次はわたしの番かな
真っ白なキャンバス『わたしとばけもの』
2020年に世界を席巻した新型コロナウイルスは2021年も猛威を振るった。
見えないウイルス、いつまで続くのか分からない苦しい戦いは今も続いている。
西野千明は自身のツイキャスにおいて、そんなコロナの時代にアイドルとしてステージに立つこと、感染への不安とそれでもファンに届けたい思いについてその偽らざる心境を吐露することがあった。
誰もが自由なライブを楽しみたい。
ライブでは力の限り推しの名前を叫びたい。
見せ場では高々と上がったリフトからステージを見ていたい。
しかしながら、現在の情勢下で楽しいライブを続けるために守らなくてはならないルールがある。
目に見えず忍び寄る病魔。誰が悪い訳でもない。
その短い青春の全てをかけているアイドルは、ファンが思っている以上に今の状況を忸怩たる思いで眺めているだろう。
いつの日か、そう、いつか来る日まで、今は耐えるしかない。
誰もが一人きりじゃ生きられないのだから。
何も見えなくて目の前でただ
微笑むばけものから
逃げるだけの命じゃきっと
報われないから声を上げて
真っ白なキャンバス『わたしとばけもの』
本曲は2番からはドラムが入り、終盤に向けて複層的に音が重ねられ疾走感を増す。
終盤のサビでは これまでのソロ歌唱から打って変わってユニゾンが展開されラストの「ひとりじゃない」というフレーズをより強く際立たせる。
プロデューサーの青木氏は「メンバーが思っていないことは歌わせたくない」と常々語っている。
本曲のMVでは赤服の女が狂ったように踊る前半とうって変わってメンバーの楽しそうなシーンがちりばめられた中盤へと展開する。
その様子は心の中には”ばけもの”を飼いながらもアイドルという”偶像”を演じる、限りないリアルを生きる者たちから表面しか見ない者たちへの強烈なアイロニーのように感じられたのは私だけだろうか。
心に潜む”ばけもの”は目の前でただ微笑んでいる。
様々な意味が込められた本曲の答えは分からずじまいだ。
ただ一つだけ言えるのは、0か100かの極めて取り扱いの難しい作品を成立させたのは、ひとりひとりの確かな成長と、そして懸命に今を生きるメンバーの魂が込められていたということだ。
そしてそれは、今の時代に真っ白なキャンバスというアイドルグループが存在するレゾンデートル(存在意義)でもあるのだ。
『わたしとばけもの』を歌い終えると再度”ばけもの”が登場。
全員が心の中のばけものに打ち勝ったことを確認するとステージから去っていき、コンセプトライブパートは終了する。
その後はメンバーの自己紹介MCを挟み、本日の4周年ライブに向けての奮闘ぶりについて和やかに語る。
13曲目は『共に描く』
緊張感の高い前半部分を終え少しホッとしたムードに包まれる会場。
そんな中でも集中力を切らさずパフォーマンスを繰り出す橋本は見事の一言だ。
「ほらもう一人じゃないんだよ」と小野寺梓が終盤に歌うパート。
鈴木と麦田が小野寺に近づいて初期メンバー3人で微笑むシーンに思わず涙腺が緩んでしまう。
14曲目は『Whatever happens,happens.』
白キャンの定番アッパーチューン。
三浦の「行くぞ」の煽りで会場のテンションを一気に高める。
西野は「今日は嫌なことを全部忘れて、4周年に相応しい素敵なライブにしましょう」と曲間で煽り、さらに勢いを加速させる。
15曲目は『レイ』
曲中のクラップが心地よい、大人のピアノロックだ。
ライブは一時間を超えたが全く疲労を感じさせない気迫のこもったパフォーマンスを繰り出すメンバー。
一朝一夕では身につけることのできない基礎体力に、たゆまぬレッスンを積み重ねてきたその努力を知る。
メンバーの渾身、そして会場のファンの声にならない興奮を受けて、小野寺梓のボーカルはさらに高らかに会場の隅まで響き渡る。
少女の微笑みから大人の艶やかさまで、その曲の世界観をリアルに描き出す彼女の表現力は留まることなく進化し続けている。
16曲目は『闘う門には幸来たる』
「まだまだ楽しむ準備は出来てますか?」と浜辺が屈託無く笑いながら煽りを入れ、観客に休む間を与えない。
ステージで誰よりも高く跳ぶ彼女を目の前に、ファンもそれに応えてサビの連続ジャンプを繰り出す。
曲が終わるころには力を出し切った爽快感に会場全体が包まれる。
その後のMCでは『わたしとばけもの』のMV撮影の裏側について語られた。
本作ではメイキングムービーも公開されており、話と合わせてみてみるとさらに楽しめること間違いない。
17曲目は『桜色カメラロール』
6人体制の完成形と言える本曲は5人体制にて新たな意味を付され、そして7人になってさらに深く、その世界を淡く鮮やかに色づけることとなった。
もう、言葉はいらない。心地の良い音が体を包んでいく。
18曲目は『HAPPY HAPPY TOMORROW』
冒頭で橋本美桜が「今日は白キャンの4周年をみんなとお祝い出来て本当に幸せです」
曲中で小野寺梓が「白キャンは4歳になりました。5年目もたくさんたくさん愛してください。大好きだよ」
それぞれ4周年を迎えられた喜びを語る。
多くのアイドルが生まれては人知れず消えてゆく厳しい世界。
そしてこの一年はコロナ過ということもあり長年活動していたグループであってもその例外ではなく、解散や休止が相次いだ。
そんな中で活動が継続していることは、ファンにとって喜ばしいものだ。
余談にはなってしまうのだが、本公演の特典会終了後に小野寺梓の加入4周年のお祝いとして花束が贈呈された。
初期メンバーのためグループの周年と一緒となり、加入記念日のお祝いはこれまで行われていなかったのだが、サプライズでの実施。
多くのファンに祝われる小野寺の笑顔はこれからもハッピーな明日が来ることを感じさせてくれた。
19曲目は『いま踏み出せ夏』
メンバーがステージ中央で輪になり、組んだ手を空にかざし、曲がスタート。
数ある白キャンのフォーメーションの中でも最も感動的なシーンの一つだ。
曲中では西野が小野寺を笑わそうとのぞき込んだりするなど、のびのびと楽しそうにステージを駆け回る。
終盤の肩を組んでのオーイングで会場が一体となる。
ライブは終盤に差し掛かっていた。
20曲目は『ポイポイパッ』
『わたしとばけもの』の世界観とは真逆の5人体制ラストの集大成となる『ポイポイパッ』は浜辺ゆりなの存在無くしては生まれなかったであろう。
浜辺はその天真爛漫さで、今までの白キャンになかった”元気”という要素を加えた。
飛び出せ私は何にでもなれるってさ
悩みの種も重い荷物もパッパッポイ
真っ白なキャンバス『ポイポイパッ』
この一年間、もっとも苦労をしたのは浜辺であろう。
3周年では加入からわずか4か月の期間で22曲をマスター。同時並行でアルバムのための6曲を習得。慣れる間もなく新メンバー追加。
7人体制への移行に際しては加入したのが鈴木と麦田であったため、浜辺は自分のパートの多くを二人に戻すこととなり、また新たなパートをマスターする必要があった。
楽曲には各自それぞれ思い入れがある。だから既存曲の歌割が変更になった際には、その思い入れの数だけ意見が出てしまうのは仕方のないことである。
6人体制から5人体制、そして7人体制へと変化していく中で、浜辺は「自分は不要な存在ではないか」とツイキャスでその複雑な胸中を吐露することもあった。
でも、ファンは知っていた。彼女は悩みながらもそれを乗り越えてしまうことを。
彼女の屈託のない笑顔はいつでも周りに勇気を与えてくれる。
そんな浜辺のステージでの存在感は日を追うごとに増すばかり。
その無限の可能性はまだ底を見せていない。
嬉しい事 悲しい事も全部私と半分こしよう
君とならきっとどこまでも笑いながら歩ける
夢を きっと ずっと
真っ白なキャンバス『ポイポイパッ』
これからもグループはきっとたくさんの困難に見舞われるだろう。
でも、白キャンには浜辺ゆりながいる。
だからその未来はきっと明るい。
21曲目は『自由帳』
かつて去った者が戻ってきて同じ道を目指す。そんな奇跡のような7人の物語がそこにはあった。
未来から あらゆることが
色褪せて見えてしまうわ
いつもよりそっと歩いたの
真っ白なキャンバス『自由帳』
この奇跡のような瞬間が出来る限り長く続きますように。
心の中でただ強く願った。
会場一面が真っ白なサイリウムで染められる。そんな幻想的な光景の中でライブ本編は終了した。
アンコール第1段となる22曲目は『アイデンティティ』
SEと共にメンバーがツアーTシャツに着替えて登場する。
小野寺梓は髪を縛り、ツインテールにヘアチェンジを行っている。
いつだって全力でファンを楽しませようとする彼女はアイドルの鑑だ。
そんな小野寺は近年、自分の理想のアイドル像を語ることが増えた。
かって引きこもりだった自分を救ってくれた存在のような、そんなキラキラしたアイドルになりたいと。
現在の小野寺は白キャンのエースとして、ライブアイドル界において多くの同業者のアイドルからも憧れを抱かれる存在。
また、ヤングジャンプ、週刊プレイボーイ、FLASHなどの主要メジャー誌でもグラビア登場を果たすなど、その活躍ぶりは益々広がるばかりだ。
そんな現在もっとも輝いているアイドルの一人である小野寺梓。
だが、その輝きは誰よりも夜の闇の深さを知っているからこそかもしれない。
・余り恵まれたとは言えない学生時代
・アイドルを目指し上京するも理想には遠く
・白キャンのオーディションは補欠での合格
・勝負をかけた2ndワンマンは客層の被るアイドルグループとバッティング
・必勝と思われたTIFメイン争奪では誰もが予測しなかった敗退
・メジャーデビューを果たすも世はコロナの時代に突入
・作詞をした楽曲を地元に凱旋し初披露する機会では、まさかの曲中の地震により中止
次々と降り続く過酷な運命に翻弄されながらも、彼女は自身の努力でその未来を切り開いてきた。
「現実は」「現実は」「現実は」厳しいと厳しいと
「諦めろ」 そうやって自信を無くしたの
だけど放せずに放せずに 手放せずにいるから
「変えていけ」「変えていけ」
運命(さだめ)を乗り越えいくんだろう?
真っ白なキャンバス『アイデンティティ』
誰しもに訪れる青春時代、だがそれはあっという間に過ぎ去っていく。
小野寺は比喩ではなく、そのすべてをアイドルとして生きることに捧げている。
多忙の中にあってもTwitter、Instagram、TikTokにツイキャス等をまめに更新。ステージパフォーマンスには妥協を許さず、激務でもボイトレなどの自己研鑽は欠かさない。
グラビア撮影の食事制限は当然のようにこなし、美貌の維持のため日常から太陽の紫外線を浴びないために部屋の窓を塞ぐ。
その行動はストイックを超え、もはや執念すら感じるほどだ。
彼女のあまりものアイドルへの傾倒は、時に心配になることもあるのだが、私はそれを止める言葉を持たない。
そう、きっと私は小野寺梓を知りすぎてしまったのだ。
何故なら彼女にとってアイドルをすることは、生きるということと同義なのだから。
「嗚呼どうせ」そうやって自信を無くしたのだけど
放せずに放せずに 手放せずにいるから
「大丈夫」「大丈夫」
背中を押されたあの声
真っ白なキャンバス『アイデンティティ』
かっての彼女はよく泣いていた。
それは自分への不甲斐なさであったり、日々起こる出来事の軋轢に耐えられなかったり。
今の彼女もよく泣いている。
だが、それは多く支えてくれる者への感謝であったり、日々起こる様々な出来事への感動であったり。
その涙の意味は彼女がアイドルを続けていく中で変化した。
そして未来の彼女も、きっと沢山の涙を流すのであろう。
でも、その涙は夜空を照らす星のように、キラキラと美しく、そして強く輝く。
光のなかでも、闇のなかでも、小野寺梓は彼女にかかわる全ての者の世界をこれからも照らし続けるだろう。
そんな彼女のアイドルとしてのアイデンティティは決して揺るぐことはない。
アンコール第2段となる23曲目は『白祭』
ライブのラストで対バンの定番のセトリを持ってくる構成にはやられたという思いだ。
わずかに残る体力をカラカラの限界まで使い果たす。
アンコール第3段、本日のラストとなる24曲目は『PART-TIME DREAMER』
ライブを締めくくるのは、白キャンの運命を描いたかのようなこの曲しかない。
結成4年を迎えた真っ白なキャンバスは、今やライブアイドル界においてはその名前を知らぬものはいないほどの存在となった。
クオリティの高い多彩な楽曲にそれを表現することの出来るメンバーのパフォーマンス。
それは今やどこに出しても恥ずかしくはない。
まだまだ発展の余地はあるものの、アイドルとしての器は完全に成した。
世間に打って出る、ライブアイドルの世界からのブレイクスルー。
ここから先は運営側の手腕にかかってくる部分が大きい。
2021年に白キャンプロデューサーの青木勇斗はAtelier IBASHOという組織を立ち上げ妹分グループであるPalette Paradeをスタートさせた。
スケールメリットを享受するため、組織を大きくすることは必要不可欠なことである。
だが、その一方でリソースが分散することによるデメリットは否めないと私は考えていた。
しかし、青木はそんな凡人のありふれた予想など無意味だと言わんばかりに、これまで以上に冴えわたる作品を多数、世に生み出すこととなる。
・Live First
・Idol Driven
・Full Power
「ライブを一番に、アイドルを軸にして、全力で」、Atelier IBASHOが大切にすること3つはひどく単純明快だ
「アイドルを通して”わ”を増やし、ちょっとの一歩を創る」、コンセプトとして掲げられているこのフレーズは難解だ
青木は大きな目標として幕張メッセでのライブを口にしている。
コロナウイルスの終焉の兆しを見て、白キャンはそれに向け邁進をしていくことになるだろう。
アイドルファンにとっては大きな会場でライブをすることは悲願であり、最終目的地のように思ってしまう部分がある。
しかしながらプロデューサー青木にとっては、そんなことは単なる通過点の出来事なのかもしれない。
彼はそこから先に続く道、これまでのアイドル界をも変える、そんな野望を抱いているのではないかと思ってしまう。
そう、これまでも想像も出来ないような挑戦をしてきた稀代の天才プロデューサーには、どれだけの期待をしてもまだまだ足りないように思わせてしまう何かがあるのだ。
この世界、君となら行けそうな気がする
それでもこの夜は目覚めそうにないから
でも強いフリして ハッタリかませばいいじゃん
いつか同じ夢見よう 醒めなくてもいい夢を
真っ白なキャンバス『PART-TIME DREAMER』
今回の4周年ライブ『わたしとばけもの』は2時間を超える白キャン史上最長のライブとなり、披露された楽曲は24曲にも上った。
それなのに時間はあっという間に過ぎ、まだまだ曲を聞いていたいというそんな思いに包まれた。
間違いなく白キャンの過去最高を記録するベストステージであったと自信を持って言える。
そんな白キャンはこれから5年目に突入する。
寿命の短いアイドルグループの世界の中で、白キャンがこれからアイドル史に名を遺す存在になるかどうかは誰にも分からない。
だが、これだけは自信をもって言える。
閃光のように輝く、彼女たちの”今”は何事にも代えがたい価値がある。
私はこれからも彼女たちを追いかけ続ける。
そう、この夢の先まで。
メンバーコメント
小野寺梓
本日はありがとうございます。
この7人で4周年ライブが出来てすごくうれしいです。
梓にとって白キャンは青春で、私の生きた時間だと思っていて、白キャンが梓の居場所なのでみんなもそんな白キャンが居場所になってくれたら嬉しいなと思います。5年目もよろしくお願いします。
三浦菜々子
本日はご来場いただきありがとうございます。
3周年のZeppから4周年の今日まで本当に記憶がないんですよ。夏に5Daysライブをやったりとか所々のイベントは覚えているんですけど、毎日何をやっていたのか本当に記憶がないんですけど、こんな状況の中でそんな風に充実させていただいていたんだなとここ何週間か、このライブのリハをやりながら考えてすごいありがたいことだななと感じました。
今回のライブもわりと前日くらまで私もそわそわしていたんですけど、凄い楽しく今この瞬間を迎えられたので本当に良かったです。本日は本当にありがとうございました。
橋本美桜
Zeppが終わって、あまり制限とか解除された感じがしなくて。ライブをしてもみんな楽しめているのかと考えてしまったり、変化していくスピードが凄すぎて新しいことにチャレンジしても流れちゃうじゃないかと思っていた中での4周年ワンマンがコンセプトライブになって「マジか・・・」と結構思っていたんですが、みんな見ていてどうやって乗ったらいいかとか思っていたかもしれないんですけど、みんなが温かく見守ってくれたおかげで、自分たちというか私が不安なままステージに立ってしまったんですけど心の支えになりました。
4周年ライブが成功したのは皆さんのおかげだと思います。ありがとうございます。5年目も頑張るのでよろしくお願いします。
西野千明
改めましてお越しいただきありがとうございます。
皆さんは今日楽しんでくれましたか。(客席の拍手)嬉しい、ありがとうございます。千明たちも今日は楽しくライブが出来ました。ありがとうございます。
白キャンは2017年に結成して、今は2021年。千明とみおちが加入したのは2018年の大みそかなんですけど半分以上私たちいるよね(橋本を見る)
白キャンのひとつなんだなと実感しました。
そんなみんなのおかげで関係者の方々も沢山いらっしゃって、多くの方々のおかげで素敵なライブが出来ました。本当に本当にありがとうございます。
4周年、これからもよろしくお願いします。以上西野千明でした。
浜辺ゆりな
本日はお越しいただき本当にありがとうございます。去年の3周年ライブは自分が加入してから3か月くらいで開催されちゃって気持ち的には周年という感じじゃなかったんですけど、今回は一年間頑張ってきてちゃんと3周年ライブという形で開催できて良かったです。
この一年は振り返ったら結構辛いことがいっぱいあって、環境も変化もあったし色々なことがあったんですけど、皆さんのおかげでまた頑張れました。
これからも頑張るので応援よろしくお願いします。
鈴木えま
今日お越しいただきありがとうございます。
自分も皆さんが温かく迎え入れてくれて本当にありがとうございます。
みんなにもすごく驚かれる出来事だったんですけど、自分でもすごいびっくりで、今回4周年ライブに出ることが出来て、またみんなと7人でライブが出来て楽しくて、初期のころから見るとこんな景色を見れるのとは夢にも思っていなくて、皆さんありがとうございます。
以上、鈴木えまでした。
麦田ひかる
本日はお越しいただきありがとうございます。なんか、再加入して皆様がすごい温かく迎え入れてくれたことを裏切らないように・・・(言葉につまり小野寺と見つめあう)頑張ろうって思って、今日臨んでこうやってみんなと一緒に7人でステージに立てて良かったです。ありがとうございます。
真っ白なキャンバス「4周年ワンマンライブ
『わたしとばけもの』」セットリスト
01.SHOUT
02.ダンスインザライン
03.セルフエスティーム
04.ルーザーガール
05.オーバーセンシティブ
06.全身全霊
07.my fake world
08.モノクローム(小野寺梓、橋本美桜、鈴木えま)
09.らしさとidol(小野寺梓、橋本美桜、鈴木えま)
10.パーサヴィア(三浦菜々子、西野千明、浜辺ゆりな、麦田ひかる)
11.空色パズルピース(三浦菜々子、西野千明、浜辺ゆりな、麦田ひかる)
12.わたしとばけもの
13.共に描く
14.Whatever happens, happens.
15.レイ
16.闘う門には幸来たる
17.桜色カメラロール
18.HAPPY HAPPY TOMORROW
19.いま踏み出せ夏
20.ポイポイパッ
21.自由帳
EN1.アイデンティティ
EN2.白祭
EN3.PART-TIME DREAMER